
奔放な母が死に、残された三姉妹は、母が憧れていたトルコのイスタンブールへと遺骨と共に旅に出る。それぞれに人生の岐路に立つ三姉妹に、母との思い出がフラッシュバックする――。長女を演じる田畑智子、次女を演じる鈴木杏(初演の際、この作品で第24回読売演劇大賞の最優秀女優賞を受賞)の二人に、三女を演じる芳根京子、母を演じるキムラ緑子の新キャストが加わっての上演となったが、二人入れ替わるだけで初演と雰囲気ががらり変わったことに驚かされた。この作品における“母”が体現する女の業がいささか重く感じられた初演に対し、再演の舞台は笑える場面も多く、軽やかに弾む感がある。その一つの要因として、キムラ緑子がキャスティングされたことが挙げられるだろう。今回、観劇前に戯曲を読み返す機会があったが、宛て書きではないにもかかわらず、キムラの演技が思い浮かぶようだった。そのキャスティングの妙が事前の想像以上にピタリとはまり、男と酒に振り回され、子供たちにときにつらく当たりながら生きる一人の人間の、母としての、女としての不器用な生き様が、滑稽味とせつなさの絶妙なバランスの上に描き出されることとなった。爆笑してしまったのが、ちゃぶ台を挟んで座り、次女の恋愛相談に乗りながら、自分のかかとのひび割れを次々と剥いて灰皿に入れるシーン。娘の前とはいえ、一切のはばかりのない雑な仕草が、その人間性を生き生きと浮かび上がらせていた。

それぞれに母から受け継いだもの――受け継いだかに思うもの――に悩み、そこから人生の一歩を踏み出そうとあがく三姉妹。田畑智子は、しっかり者のようでいて実は相反するものを抱えた長女役として、観る者に愛おしさを感じさせる演技。鈴木杏も、奔放そうでいて保守的なところもある次女役の複雑な内面を演じて共感を誘う。そして、舞台経験も豊富な三人のキャストに、これが舞台二作目となる芳根京子が、朝ドラ(NHK連続テレビ小説)ヒロインの誇りをもって、まっすぐ素直に立ち向かう様が頼もしい――芳根扮する演じる三女が下す決断こそ、この惑星における人間の生の営みを続かせてきたものに他ならない。小気味よい四人の掛け合いに聞き入るうち、観る者もまた、自らの人生を振り返らずにはいられない、そんな良質の舞台である。
(3月13日13時半、紀伊國屋ホールにて観劇)
文=藤本真由(舞台評論家)
4/20SATURDAY・4/21SUNDAY 【チケット発売中】
パルコプロデュース 2019
「母と惑星について、および自転する女たちの記録」
◎演出:栗山民也 作: 蓬莱竜太
◎出演:芳根京子 鈴木杏 田畑智子・キムラ緑子
■会場/穂の国とよはし芸術劇場PLAT 主ホール(豊橋駅直結)
■開演/4/20(土)17:00 4/21(金)13:00
■料金(税込)/全席指定¥7,500
U-25¥4,000(観劇時25歳以下対象、当日指定席券引換 要身分証明書
チケットぴあ、プラットチケットセンターにて前売り販売のみの取り扱い)
■お問合せ/サンライズプロモーション東京
TEL.0570-00-3337(全日 10:00~